東京高等裁判所 昭和39年(ネ)962号 判決 1966年3月07日
控訴人 有限会社横山喜惣治商店
被控訴人 国
代理人 鎌田泰輝 外一名
主文
原判決を取り消す。
被控訴人は、控訴人に対し、金百八万四千三百二十四円及びこれに対する昭和三十七年十一月二十九日から完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事 実<省略>
理由
一、当事者間に争いのない事実は、原判決の「理由」第一項のうち(原判決書八枚目(記録二十八丁)表二行目から裏四行目まで)に示すとおりである。訴外東海航空測量が函館開発建設部に請求することができた本件工事請負代金債権が金百八万四千三百二十四円であること、控訴人が東海航空測量に対しその主張のような約束手形金債権一、三二七、〇〇〇円の債権を有していたこと、東海航空測量が控訴人の取締役である野原茂雄に対し控訴人主張のような代理受領の権限を与えてこれを委任するようになつたこと、控訴人はこの委任状を函館開発建設部に提出し代理受領の承認を受けたこと、本件代理受領の委任契約が委任者たる東海航空測量の一方的意思表示により解除できないものであること、函館開発建設部が本件工事請負代金を野原茂雄に支払わず、東海航空測量に支払つたこと及びその経緯についての当裁判所の判断は、原判決の「理由」第一項ないし第四項第一、二段(原判決書八枚目(記録二十八丁)裏四行目から同十三枚目(記録三十三丁)裏八行目)に示すところと同じであるから、これをここに引用する。ただし原判決書九枚目(記録二十九丁)表五行目及び裏七行目並びに同十一枚目(記録三十一丁)裏三行目にある「野原茂雄」の次に、「当審証人野原茂雄」を加え、同十枚目(記録三十丁)表四行目に「委任状に原告会社取締役野原茂雄を受任者として記入し」とあるのを「受任状に原告会社の取締役である野原茂雄の氏名を受任者として記入し」と改める。
二、そこで小田島が東海航空測量に請負代金を支払つたことについて過失があつたかどうかについて判断する。原審証人田口精一、原審及び当審証人野原茂雄の各証言を総合すると、控訴人の取締役野原茂雄が函館開発建設部に田口精一を使者として本件委任状を提出して代理受領の承認をうるにあたり、本件工事請負代金債権が控訴人の東海航空測量に対する本件約束手形金債権の弁済にあてる旨を告げたこと、たま委任者が第三者から受領すべき債権をこのような方法によつて受任者が委任者に対して負担する債権の担保に供される事例が取引上しばしば行われていることを認めることができ、この事実と前記一に認定した事実をあわせ考えると、本件代理受領委任状が提出された当時、函館開発建設部においては、本件工事請負代金が控訴人の東海航空測量に対する債権の担保となつていたことを知つていたものというべく、形式的には、右代金を委任状によつて代理受領をするという方法によつたものであつても、その実質は第三者の債権の担保となつておつたものであるから、代金受領の委任契約は委任者の一方的意思表示により解除することのできないものであることは、原判決理由に述べるとおりであつて、受任者である控訴人以外の者に支払えば、その債権の満足を受けることできなくなるかも知れないことは容易に知ることができたものである。
したがつて、右の受任者に対して支払いを拒絶し、委任者にこれを支払う場合には、一応受任者に確め、受任者につきその同意をうるかその他これを支払うにつき正当な理由があるかどうかを明らかにしなければならない。しかるに、函館開発建設部において本件工事請負代金を受任者である野原茂雄に支払わず、これを東海航空測量に支払うにあたり、受任者につき、その支払いについての同意を求めたり、これを一応確めたことを認めるに足る証拠はなく、右の支払いは、さきに認定した経緯(さきに引用した原判決の「理由」第四項第一段(原判決書十一枚目(記録二十一丁)裏一行目から同十三枚目(記録三十三丁)裏一行目まで)において認定した事実)で行われたものであるが、東海航空測量についてのみ受領者の対立した利害を調整すること求めただけであつて、委任者である東海航空測量の受任者野原に対する一方的な委任解除通知があつたことだけで軽々しく東海航空測量に本件工事請負代金を支払い、控訴人に本件手形債権の満足を与えることができなくしたことは過失があるものといわなければならない。
三、右によると、被控訴人は、函館開発建設部長小田島政治の使用者として右の被用者が本件工事請負契約事務を執行するにあたり、過失により、右代金の代理受領者野原茂雄が被控訴人の取締役でありその代理人として被控訴人のために右代金の支払いを受けることができなくした違法な行為に基づく損害を賠償する義務がある。東海航空が無資力であり、被控訴人が東海航空測量に対し請負代金を支払つたため、控訴人は本件手形債権の弁済を全然受けることができないことは当審証人野原茂雄の証言により認めることができる。したがつて、控訴人の被控訴人に対する右の不法行為に基づく損害賠償として、右代金相当額である金百八万四千三百二十四円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和三十七年十一月二十九日から完済まで民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める本訴請求は、そのほかの点につき判断するまでもなく、理由がある。
よつて、これと異なる原判決は不当であるから取り消し、控訴人の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用は、第一、二審とも、敗訴の当事者である被控訴人に負担させることとして、主文のように判決した。
(裁判官 千種達夫 岡田辰雄 舘忠彦)